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人生というプロレス – 柳澤健『1985年のクラッシュ・ギャルズ』感想

クラッシュ・ギャルズという名前は知っている。もちろん長与千種とライオネス飛鳥の名前も知っている。でも、彼女たちのプロレスは観たことがない。そもそも女子プロレス自体にあまり興味がない。そんな私が読んでもこの『1985年のクラッシュ・ギャルズ』という本はとても面白かった。なのでクラッシュ・ギャルズのプロレスを知っている世代、もしくは彼女たちが青春時代のシンボルだった人たちは私の何倍も楽しめることだろう。それがとても羨ましいと思った。

本書には三人の主人公がいる。そのうち二人はもちろんクラッシュ・ギャルズの長与千種とライオネス飛鳥で、三人目はそのクラッシュ・ギャルズに人生を変えられてしまったひとりの少女(のちにプロレスライターになる伊藤雅奈子氏)だ。あとがきで作者の柳澤健氏は「プロレスは観客なしでは成立しない」と書いているが、この三人目の主人公の存在が本書を単なるプロレスラーの自叙伝を超えたひとつの作品としてのすぐれた奥行きを作り出していると思う。そしてそんな夢を諦めない三人の生き様にこうやって胸を震わせる私もまた人生というプロレスをみつめるひとりの観客なのだということに気づく。