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奇才・松井優征の帰還 – 『暗殺教室』第1巻 感想

『魔人探偵脳噛ネウロ』の松井優征がジャンプに帰ってきた。新作のタイトルは『暗殺教室』。このタイトルとコミックスの装幀の時点で何かやらかす気マンマンといった感じがビンビン伝わる。これはファンとしては期待せずにいられない。というわけで、待望の第1巻を読んでみた。

どうして渚くんは女の子みたいにかわいらしいのか

まず、絵がネウロの頃よりかわいらしくになっていてビックリした。「え、これ松井優征だよね?」と思ってしまったくらい。特に主人公と思われる渚くんなんて女の子みたいにとてもかわいらしい。

このかわいらしいキャラクター造形は「殺す」というハードなテーマとのミスマッチ、違和感をつくりあげるためのものだろう。またそれは、暗殺者にまだなりきれていない生徒たちの“未完成”の表現のようにも思われる。実際、烏間など大人たちの描き方はネウロの時のタッチと変わらない気がする。殺せんせーに暗殺が許されている子供たちだけが妙にかわいらしいのは『暗殺教室』のスタート段階における注目したいポイントのひとつだ。

「殺す」というワンワードをどこまで広げられるか

世に「死」を扱うマンガはたくさんあれど、「殺す」という言葉に真っ正面から向き合ったマンガはそう多くはないと思う。まして『暗殺教室』はそれを天下の少年ジャンプでやろうとしている。少年誌であるがゆえのやりにくさは想像にかたくないが、少年誌だからこそのやり甲斐はあるだろう。

だいたい「殺す」というのは幼い言葉なのだ。いい大人はそう簡単に「殺す」なんて言わない。また、扉の作者の言葉に書いてあるように、「殺す」ほど実行されない意思表示もない。それでも口にしてしまうこの奇妙な言葉を軸にして『暗殺教室』はつくられるらしい。少年誌でやる意味も含め、このワンワードからどんな物語が生まれるのかとても楽しみだ。

次巻からの展開に期待

1巻で設定や登場人物などの紹介はひと通り終わった感じで、次巻からは早くも外部から刺客が送り込まれるようだ。でも最終的に外部のキャラクターが殺せんせーを暗殺するとは思えないので、そういった外部のガチな暗殺者を刺激にして渚くんたちE組諸君が本物の暗殺者に成長していくのを見守るという展開がしばらく続きそうではある。そういう意味ではネウロの時のような自由な展開はちょっと望みにくいように思うし、設定がカッチリしているがゆえの窮屈さが物足りなさを感じさせないでもない。

その原因は学校という限定された環境と「卒業までに暗殺できなければ地球滅亡」というゴールにあるように思われる。でもそこはジャンプの奇才・松井優征、この1年間という短くて長い学園生活をどのように調理していくのかお手並み拝見といったところだ。ネウロが23巻だったので、今回の『暗殺教室』も20巻前後でキッチリおさめてくるんじゃないかと個人的には思っている。打ち切りの心配はネウロの実績やコミックスの評判から考えると今のところなさそうだが、何があるかわからないので連載チェックの松井ファンの方々にはアンケートハガキで援護射撃をお願いしたいところだ。

『暗殺教室』のヒット(も何もまだ1巻が出たばかりなのだが…)を受けて、ネウロの方も重版がかかっているみたいだ。いままで知る人ぞ知るレベルから抜け出せずにいたネウロが「暗殺の原点」なんて書いてある帯をつけて並んでるのはちょっと笑った。でもネウロはもっと多くの人が読んでもいい傑作だと思うので、このまま暗殺の波に乗っかって相乗効果で売れていってもらいたい。そういう意味でも『暗殺教室』のこれからには期待している。